劣等感
私の芸大4年間は、劣等感だらけの毎日でした。 音大の、特にピアノ科やヴァイオリン科の人って、親がピアノの先生とかで、子どもの頃からしっかり練習を積み重ねてきた人が多いんです。 一方私は、ピアノは5歳からやってはいましたが、ごく普通の家庭で、特にそこまでクラシックにたくさん親しむでもなく過ごしてきて、途中から突然音楽の道を目指し始めた人です。 当然、積み重ねには大きな差があって、それはもう、ちょっとやそっとでは埋まらない差でした。 芸大のピアノ科なんて行けるはずもなく、それでもなんとか楽理科に潜り込みました。 ※楽理科は音楽学(音楽の学問的な部分)を専門にする学科です。 楽理科に潜り込めたけど、私がやりたいのはピアノで、それなのにピアノ科に入れなかった、という劣等感をずーっと抱えていたのです。 ピアノが好き!でも、ピアノ科じゃないから…と。 でも、そのときある人から聞いたのが 「芸大のピアノ科の人ですら劣等感で満ちている。本当に弾ける人は最初から海外に行っちゃうのに、自分は海外に行けなかった、という劣等感を感じてる人は多い」 ということだったんです。 これはピアノ科の人本人から聞いたわけではないし、海外にも行けるけど敢えて芸大を選択した人だっていると思うので、一概には言えないと思うけど、 でもそれを聞いた時はすごくびっくりしたのを覚えています。 まさかまさか、あの憧れの芸大のピアノ科の人ですら劣等感を感じているなんて。 これではっきりとわかったのは、仮に私が芸大のピアノ科に入っていたとしても、同じように劣等感を感じていたんだろうな、ということ。 劣等感の連鎖はどこまでいっても続いてるのかもしれない。 もしかしたら、こんな劣等感まみれの私に対してすら、劣等感を感じている人がこの世のどこかにいるかもしれない。 そう思うと、少しふっきれたんです。 そして今、大学時代よりはずっとピアノが弾けるようになって、ある程度の自信はありますが、 それでも彼らに届いたとは思っていないし、劣等感が消えることはないです。 世界で華々しく活躍する同級生や後輩もいて、純粋に嬉しさと尊敬と、その後ろにはいつも劣等感があります。 でも以前と違うのは、劣等感に「飲まれていない」ということ。